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東京地方裁判所 平成8年(ワ)8103号 判決 1996年9月24日

原告(反訴被告)

涌井裕

被告(反訴原告)

有限会社ハマダ・ロケーシヨンサービス

被告

小池崇明

主文

一  本訴被告らは、各自、本訴原告に対し、金三八万一〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告に対し、金一二万五〇二四円及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  本訴原告及び反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その七を本訴原告の負担とし、その余は本訴被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴事件

1  本訴被告らは、本訴原告に対し、一一〇万円(一二七万一四九三円の内金請求)及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用の本訴被告の負担及び仮執行宣言

二  反訴事件

1  反訴被告は、反訴原告に対し、二〇万円(二一万七九九三円の内金請求)及びこれに対する平成七年六月三〇日から支払済みまて年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用の反訴被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、転回車両と直進車両とが衝突した交通事故により、自動車の損傷を受けた被害者が、互いに相手方の運転者(本訴事件、反訴事件)及びその使用者(本訴事件)に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  本件交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

事故の日時 平成七年六月三〇日午後四時一〇分ころ

事故の場所 東京都葛飾区小管一丁目三五番地先交差点路上(通称平和通り。以下、同道路を「本件道路」といい、同交差点を「本件交差点」という。)

関係車両1 普通乗用自動車(足立五二る七三九三。以下「涌井車両」という。)

所有者・運転者 本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)

関係車両2 普通貨物自動車(足立一一ふ一六一九。以下「小池車両」という。)

所有者 本訴被告(反訴原告。以下「被告会社」という。)

運転者 本訴被告(以下「被告小池」という。)

事故の態様 右折転回中の涌井車両と直進中の小池車両とが衝突した。

事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  被告会社は、被告小池の使用者であり、本件事故は、被告会社の事業の執行につき生じたものである。

三  本件の争点

本件の主要な争点は、本件事故態様(過失相殺)と損害額である。

1  本件事故態様

(一) 原告の主張

本件事故は、涌井車両があらかじめ、転回のため右ウインカーを出していたのにかかわらず、小池車両が対面信号を無視した上、右折専用レーンを直進してきたため、発生したものであるから、被告小池には、信号無視、通行区分等に違反した過失があり、被告小池は、民法七〇九条に基づき、その使用者である被告会社は、民法七一五条一項に基づき、いずれも原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告らの主張

本件事故は、小池車両が、それまで進行中の第一車線の進路前方が渋滞していたことから、本件事故現場手前において第二車線に進路を変更して直進したところ、折から右折転回のため、停止していた涌井車両が、小池車両の出した進路変更の合図を見て小池車両は自車の手前で右折するものと誤信し、小池車両の目前で転回を始めたため、発生したものであるから、原告には、前方不注視ないし安全確認を怠つた過失があり、原告は、民法七〇九条に基づき、被告会社に生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  損害額

(一) 原告 一二七万一四九三円

(1) 修理代 一一〇万一四九三円

(2) 代車料 七万〇〇〇〇円

原告は、建築設計等の業務に従事しており、本件事故により涌井車両が使用できなくなつたため、義兄の渡辺秋穂(平成七年七月三日から同月七日までと、同月一〇日から同月一四日までの一〇日間)、友人鷲田稔(同年七月八日、九日、一五日、一六日の四日間)から合計一四日間、一日五〇〇〇円で代車を借りて使用した。

(3) 弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円

(二) 被告会社 二一万七九九三円

(1) 修理代 一六万七九九三円

(2) 弁護士費用 五万〇〇〇〇円

一  本件事故態様について

1  前記争いのない事実に、甲五の1ないし3、六、八の1ないし6、九、乙二、原告本人、被告小池本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路は、千住新橋方面と小管方面とを結ぶ片側二車線(各片側道路の幅員一四メートル。)の直線道路であり、本件交差点は、東京拘置所正門前の、首都高速道路高架下に位置する、信号機により交通整理の行われている交差点である。本件交差点内の転回は禁止されていない。

本件道路は、両方向とも交通料が多く、最高速度が四〇キロメートル毎時に制限されており、路面はアスフアルトで舗装され、平坦であり(ただ、千住新橋方面から小管方面に向かう道路がやや下がつている。)、本件事故当時、乾燥していた。

本件道路を小管方面から千住大橋方面に向かつて進行すると(被告小池進行方向。第一車線と第二車線とは白色破線で区別されており、車線変更は禁止されていない。)、第一車線には、直進用の白色矢印による道路標示がされているだけであるが、第二車線には、本件交差点に至る手前から白色矢印により右折用の道路標示が施され、その前方には、右折用の待機レーンが施されているものの、本件交差点入口の停止線を過ぎて、さらにその先には、白色矢印により直進及び右折両用の道路標示が施されているとともに、再び右折用の待機レーンが設置されている(その先は、特に標示はない。)

本件道路の被告小池進行方向の本件交差点入口の停止線から本件事故の衝突地点までの距離は、約四〇メートルである。

本件道路の原告進行方向と被告小池進行方向は、対面する同じサイクルの信号機により規制されており、その現示サイクルは、青色四五秒、黄色四秒、赤色五〇秒の九九秒サイクルである。なお、右折用の青矢印信号はない。

(二) 原告は、本件交差点を何度か通行したことがあつたが、本件事故当時、仕事で足立区役所に行くため、涌井車両を運転し、原告進行道路の第二車線を千住新橋方面から小管方面に向かい進行中、本件交差点を右折転回しようとして、対面する信号機の青色信号に従い、右ウインカーを点滅させながら、本件交差点内に進入して待機していたところ、被告小池進行道路の対面信号が黄色に変わり、小池車両との距離がかなりあるように見えたため、十分間に合うと思い、転回を開始したが、その途中の被告小池進行道路の第二車線上において、涌井車両の左前部(左斜め前方から入力)と小池車両の右前部とが衝突した。

涌井車両は、本件事故によりフロントバンパー、フロントグリル、フロントフエンダー、ヘツドランプ、ラジエターコアサポート等が損傷したが、本件事故の際の衝突は、涌井車両のフロントバンパーの左斜め前方からの入力により生じた(甲一〇により認める。)。

(三) 被告小池は、本件事故当時、被告会社の事務所に戻るため、小池車両を運転し、被告小池進行道路の第一車線を小管方面から千住新橋方面に向かい、時速約三〇キロメートルで進行し、対面する信号機の青色表示に従い、本件交差点に進入したが、進路前方の第一車線は、先行車両があつて渋滞気味であつたうえ、被告小池がやや遅れて交差点に進入したため、そのままでは交差点を通過する前に赤信号になり、本件交差点内に残つてしまうおそれがあつたため、その前に交差点を通過しようとして、本件交差点内の停止線を過ぎた辺りで右ウインカーを一、二秒間点けて第二車線に進路を変更するとともに、時速約四〇ないし六〇キロメートルに速度を上げた。

小池車両が停止線を通過する際の対面信号機の表示は、青色であつたが、車線変更をするころには、黄色に変わつていた。

被告小池は、車線変更する前から前方にウインカーを点滅させて待機中の涌井車両に気づいていたが、涌井車両は信号が赤色に変わるまで待つてくれるだろうと思い、そのまま直進したところ、涌井車両が徐々に動いており、涌井車両と衝突した。

小池車両は、本件事故によりフロントバンパーカバー、右ヘツドランプ等の主として車体の右前部が損傷した。

(4) 原告は、本件事故は被告小池の信号無視に起因すると主張するが、右事実を認めるに足りる的確な証拠はないというべきである上(なお、原告も小池車両が赤信号で本件交差点に進入したと明確に述べるものではない。)、前認定のとおり、被告小池進行道路の停止線から本件衝突場所の距離は、約四〇メートルであるから、仮に、被告小池車両が時速四〇キロメートルで進行したとすれば、約三・六秒で、時速六〇キロメートルで進行したとしても、約二・四秒で衝突場所まで到達でき、これに対し被告小池の対面信号機の表示は、青色の後、黄色が四秒間あるから、涌井車両が赤信号になつた後、数秒間してから転回を開始したのというのでもない限り、被告小池は黄色信号で進入できたことになり、これを小池車両の信号無視とはいいきれないことに加えて、原告が目撃者として挙げる拘置所職員の指摘(「相手の信号無視じやない」、甲五の1、原告本人)も、その字義による限り、原告主張事実を認めるに足りない。なお、甲九中の「調査内容・所見」欄の記載が、直ちに小池車両が赤信号で進入したことを基礎づけるものとも認めにくい。

次に、原告は、小池車両は、第一車線を進行した後、本件交差点内で第二車線に進路変更したものではなく、また、小池車両が第二車線に入つた後も、ずつとウインカーは点滅したままであつたというが、いずれも被告小池が否認しており、他に原告主張の事実を裏付けるに足りる的確な証拠はなく(本件において、小池車両が直進進行中、ウインカーを点滅させておくべき合理的理由は認められない。)、原告本人によれば、最後に小池車両を見たときの涌井車両と小池車両との距離は一五メートル位であつた、ぶつかるまであつという間であつたと述べる等、小池車両が直進してきていることを認識している割には、その動静について、必ずしも十分な注意を払つているものとは認められないから、原告の前記主張事実は容易に措信できない。

さらに、原告は、本件交差点進入時の車線変更位置についての被告小池の供述の一貫性を疑問視するようであるが、甲五の2、3、被告小池本人の供述を総合すれば、むしろ被告小池の供述は、概ね一貫しているものとみられるのであり、原告のこの点の非難は当たらない(小池本人によれば、当初、本件交差点が二つに切れるかどうかで関係者間に認識の相違があつたことが認められ、そのことが被告小池の供述内容、ひいては原告の認識内容に影響しているものとみられる。)。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討する。

(一) 本件事故は、交差点における転回車両と直進車両との間の事故であり、原告としては、直進車両の動静に注視し、その進行妨害にならないように転回すべき義務があるというべきところ、前認定事実によれば、原告は、小池車両が現に進行中(小池車両が本件交差点で停止していないことは、原告も争わない。)であることを認めながら、小池車両が第二車線に入り、右ウインカーを点滅させたため、小池車両は右折するものと軽信し、小池車両との距離が、原告車両が転回をするのに必ずしも十分でないのにかかわらず、転回を行つた点に前方不注視ないし安全確認を怠つた過失が認められる。

この点、原告は、小池車両との間に十分距離があると認識しているようであるが、本件道路の制限速度は四〇キロメートル毎時であり、被告小池進行道路の停止線から衝突地点までの距離は、約四〇メートルであつて、同速度における一秒間の進行距離は、約一一・一一メートルであるから、仮に直進車両が制限速度で進行したとしても、涌井車両の転回速度によつては、かなりの危険を伴うものというべきであるから、本件交差点の状況を前提とすれば、原告の認識内容は、相当でないというべきである(なお、原告本人によつても、原告車両の転回速度は判然としないが、衝突部分が原告車両の左前面部であることからしても、転回開始後、早い段階で衝突していると認められ、他に原告車両が格別速く転回したことを認めるに足りる証拠はない。)。また、本件交差点における被告小池進行道路の第二車線は、道路標識等により、直進進行が禁止されているとは解せられないから(甲八の3ないし6、乙二、三)、小池車両の通行区分違反を理由とする原告の主張は採用できない。

他方、被告小池としても、小池車両が信号の変わり目に本件交差点内に進入していることを自覚しながら、交差点内で進路変更をしたうえ、制限速度を超えて進行した結果(被告小池が四〇キロメートルを超える速度で進行していたことは、被告小池の自認するところであり、また、小池車両が赤信号に変わる前に本件交差点を通過しようとしていたことからして、小池車両が制限速度を上回つていたことは明らかである。)、本件事故が生じたというべきであるから、この点に安全運転義務違反(原告の主張は、その趣旨を含むものと認める。)の過失が認められる。

(二) そして、原告、被告小池の双方の過失を対比すると、その割合は、原告七〇、被告小池三〇とするのが相当である。

二  責任原因

1  原告は、前記一2(一)の過失により本件事故を引き起こしたものであるから、原告は、民法七〇九条に基づき、被告会社に生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告小池は、前記一2(一)の過失により本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、また、被告会社が被告小池の使用者であること及び本件事故が被告会社の事業の執行につき生じたことは当事者間に争いがないから、被告会社は、民法一七五条一項に基づき、いずれも原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害額

1  原告

(一) 修理代 一一〇万〇〇〇〇円

甲三の1ないし5、五の1、原告本人によれば、涌井車両の修理代は、一一〇万円と認められる。

(二) 代車料 七万〇〇〇〇円

甲四の1、2、原告本人によれば、原告は、建築関係の業務に従事しており、本件事故により涌井車両が使用できなくなつたため、義兄の渡辺秋穂(平成七年七月三日から同月七日までと、同月一〇日から同月一四日までの一〇日間)と友人鷲田稔(同年七月八日、九日、一五日、一六日の四日間)から合計一四日間、一日五〇〇〇円で代車を借りて使用したことが認められ、右支出も本件事故と相当因果関係のある損害というべきであるから、原告の代車料として七万円を認めるのが相当である。

(三) 右合計 一一七万〇〇〇〇円

2  被告会社

修理代 一六万四三二〇円

乙一、四により認められる。

四  過失相殺

前記一2(二)の過失割合に従い、前記三の損害額から原告につき七〇パーセント、被告会社につき三〇パーセントを減額すると、その残額は、原告が三五万一〇〇〇円、被告会社が一一万五〇二四円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情に鑑みると、本件訴訟追行に要した弁護士費用は、原告が三万円、被告会社が一万円とするのが相当である。

六  認容額

原告 三八万一〇〇〇円

被告会社 一二万五〇二四円

第四結語

右によれば、本訴原告の請求につき、三八万一〇〇〇円、反訴原告の請求につき、一二万五〇二四円及びこれらに対するいずれも本件事故の日である平成五年六月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の本訴請求及び反訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項本文を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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